鉄を眺めて

iron gazer

 

岡本健作

Okamoto Kensaku

 

2023/03/06 - 03/18

 

鉄を眺めて 

鉄の醸し出すあの独特の雰囲気というのは、近代という時代の雰囲気なのかもしれない。鉄道駅の柱や、鉄橋の構造体、工場の床など、みな近代産業そのものである。鉄を眺めたとき、そこの歴史の蓄積を感じる。それは近代という時代のおもむきである。

近代とは、機械本位な合理に人間がさらされるという経験である。われわれはこの経験によって酸いも甘いも味わってきた。それまで太陽と月の運行の中で生活してきた人々は、鉄道が通ると時計が刻む機械の時間を生きるようになった。自らの手仕事を生業としていた人々は、機械の登場によってそれが刻むリズムで物を生産するようになった。鋼鉄の近代文明に文化が覆われたとき、先祖代々の生活文化は消え去ったし、血の通った手仕事は工場生産の前にひれ伏すことになった。しかしだからといってそれが悲劇であると一概にいうことはできない。

近代的な機械は人類の新たな相棒として我々の手になじみ、操作する喜びは代えがたいものとなった。呪術的な精神世界からの解放は、革新的なモノづくりと生活を可能にした。われわれは近代の名の下豊かな生活を我々は享受している。近代とは積み重ねてきた文化をすり潰す残酷な時であるとともに、その名のもとに新たな豊かさを享受できるときでもあるのだ。

近代とは人々の生活文化が消え去る悲しみ、寂しさ、残酷さを背負っている。しかしそれと同時に豊かに生活をするという人々の決意と熱意と欲望の時代でもある。両者は混然一体となって近代という時代のおもむきを作っている。

 

鋼鉄による機械はそんな近代という時代の顔そのものである。近代という時代と同じように、苦しみと喜びを抱えた存在である。

 

岡本 健作

 

誰よりも鉄を愛し鉄を愛で続けてきた岡本が、鉄の繊細な表情や綻びまたは美しさを描くペインティング作品となります。鉄橋・鉄塔・鉄道・鉄工所などに自然と劣化し露になる錆や傷または無作為に自然と生まれた形や色を精巧に精密に切り取ったかのように描写します。それは抽象絵画のようでもあり風景画でもあります。

また岡本は社会学の学者を目指していた経歴を持つ異色のアーティストです。ゆえに博識から紡がれる鉄と近代化をテーマとした作品群は独特の視線から繰り広げられ展開されます。

鉄を心から愛する者にしか生み出せない圧巻の鉄美学をぜひご堪能ください。

gekilin.

 

岡本健作 Okamoto Kensaku

2018 関西学院大学社会学研究科博士課程前期課程修了

2019 第3回アラタパンダン展(名村造船/大阪)

2021 テクスチャーの快楽 (SUNABA GALLARY/大阪)

2021 個展 鉄路の下で(Awaiya Books/大阪)

2021 二人展 鉄と風景(きのね/大阪)

2022 Osaka Indecompe Gekilin.賞受賞(Tri Fold Osaka /大阪)

2022 抽象の庭Ⅲ( SUNABA GALLARY/大阪)

2022 個展 鉄を眺めて (yongou / 大阪)

2022 Hanshin Art Meeting (gekilin./大阪)

2022 Art!Art!Osaka(Tri Fold Osaka)

2022 Laugh &Art OSAKA(Tri Fold Osaka)